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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)737号 判決 1977年5月24日

控訴人

有限会社前田商店

右代表者

前田寿

外一名

右控訴人両名訴訟代理人

木村賢三

外一名

被控訴人

郡馬県信用保証協会

右代表者

小林盛三郎

右訴訟代理人

下村善之助

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人が控訴人らに対する本件求償金債権の発生原因として主張する事実のうち、原判決事実摘示の請求原因1ないし6の事実については当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被控訴人は借受先銀行からの求めにより、昭和三六年六月二九日、控訴会社の借受金残元金六一万一八四三円と利息金四万八〇四二円、合計金六五万九八八五円を代位弁済した事実が認められる。そして、被控訴人の自認する昭和三六年九月二九日内入金一〇四四円を差し引くと、被控訴人の控訴会社およびその連帯保証人前田寿に対する求償金債権の額は金六五万八八四一円となる。

二控訴人らは、昭和三七年八月六日頃、右求償金債権に対すする代物弁済として控訴会社が訴外吉田晴夫に対して有する債権を被控訴人に譲渡したと主張し、少なくとも債権譲渡の外形をとつた行為の存することは、当事者間に争いがない。しかし、真実代物弁済としての債権譲渡行為がなされたのか否かについては、控訴人らの主張にそう<証拠>は、<証拠>に照らすと、たやすく措信しがたく、かえつて、<証拠>によると、被控訴人は吉田に対する債権を控訴会社に代つて取り立てて控訴人らに対する求償金債権の回収をかかる便宜上、控訴会社の同意のもとに債権譲渡の外形をとつたにすぎないものと認められるので、控訴人らの右主張は採用することができない。

三次に時効について判断する。弁論の全趣旨によると、本件で被控訴人のした銀行に対する保証は、商人である主債務者控訴会社の委託に基づくものと認められるところ、かかる保証委託契約の履行として代位弁済したことにより被控訴人の取得した控訴人らに対する求償金債権は、商行為に因つて生じた債権として短期消滅時効の適用を受けるものと解するのが相当である(最高裁・昭和四二年一〇月六日判決・民集二一巻八号二〇五一頁参照)から、遅くとも、前頃二で認定した債権回収に関する合意の成立時から五年を経過した昭月四二年三月六日頃には、控訴人らに対する求償金債権の消滅時効期間が満了するに至つたものというべきである。

被控訴人は、控訴会社は昭和四三年中に三度にわたつて債務の一部弁をしたことにより時効利益を放棄したと主張する。しかし、被控訴人のいう各弁済行為は直接控訴会社がしたものではなく、被控訴人主張のような取立委任の合意に基づき、被控訴人が訴外吉田から取り立てた金員を控訴会社に対する債権の弁済に充てたものであることは、その自認するところであり、<証拠>を総合すると、被控訴人は確たる見込もたたないまま控訴会社から吉田に対する債権の取立委任を受け、受任後六年も経過した時期に漸くその主張するとおり合計金一四万円の取立を得たにとどまり、右取立の前後に控訴人らには何ら通知・報告をしてもいないことが認められる。してみれば、右取立と弁済充当が控訴会社の同意に基づくことは否定できないけれども、被控訴人に対する債務の承認は右同意時になされたにすぎず、被控訴人の手でなされた取立と弁済充当の時点にその前提として控訴会社による右債務の承認があつたものとして、その時点での時効利益放棄の意思表示の成立を認めることは、事実にそわない擬制というべきであるのみならず、時効完成前における時効利益の放棄を禁じた民法一四六条の法意にも反するもので、到底失当たるを免れない。そして、他に控訴会社につき、時効完成後における時効利益の放棄ないし時効援用権の喪失を認むべき理由は存しない。

また被控訴人は、控訴人前田寿の妻であるきみ子が控訴人両名を代理して昭和四七年二月一〇日頃被控訴人に対し元金だけは必ず支払う旨言明して時効利益放棄の意思表示をしたとも主張する。しかし、右主張にそうかの如き<証拠>も趣旨必ずしも明確とはいいがたく、<証拠>に照すと、被控訴人主張のような時効利益放棄の意思表示があつたと認めることはできない。

控訴人らが本件の原審第八回口頭弁論期日において被控訴人の本訴請求にかかる求償金債権につき消滅時効の援用をしたことは記録上明らかであり、以上に検討したところによれば右援用にかかる時効完成の効果を否定すべき理由は見出しえない。

四したがつて、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求債権はいずれも時効により消滅に帰したものとして排斥を免れないものというべく、これと異りその請求を認容した原判決は失当であるから、これを取り消したうえ、被控訴人の各請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条・八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(室伏壮一郎 横山長 三井哲夫)

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